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フェレット資料室 |
AAE(Adrenal Associated Endocrinopathy)は副腎腫瘍として高齢フェレットによくみられる疾患です。この疾患についてアメリカのWilliams博士が最新情報をレポートしています。博士の承諾を得て、当社が翻訳、記載いたしました。原文はhttp://www.afip.org/ferrets/aae.htmlです。
「どうして私のフェレットは禿げているのでしょうか?」これはフェレットの治療で最も頻繁に聞かれる質問であり、ほとんどのフェレットの開業獣医が毎日のベースでされる質問です。
脱毛症は、副腎関連内分泌障害又はAAEとして知られるアメリカのフェレットで非常に流行している症候群の最も一般的な兆候です。(本疾患はフェレットの副腎皮質機能高進症としても言及されるかもしれませんが、以下で考察する様に、クッシング病ではありません。)
AAEは多くの重要なホルモンを分泌することに関与する副腎皮質内の増殖性病巣の存在によって生じます。副腎皮質は体の無機塩類バランスを調整するステロイドと「ファイトかフライト」症候群とストレスへの反応を和らげるステロイドを分泌し、又エストロゲンなどの少量の性ホルモンを分泌します。フェレットでAAEの全ての兆候を生じさせるのはこのエストロゲンです。エストロゲンは雌卵巣、雄精巣、両性の副腎腺で正常に少量生成されるホルモンです。正常値で、エストロゲンは雄と雌のフェレットの生殖サイクルの多くの部分を調整します。しかし、過剰量で、エストロゲンはフェレットに重大な生命に危険な状態を生じさせます。罹患した動物の高エストロゲン症の生成源は片方の副腎(約15%の症例で両方)の増殖性病巣です。(「増殖性病巣」の用語は、これらの病巣の約半分は真正新生物であり、残りは副腎皮質過形成の結節である為、副腎「癌」か異論の少ない用語副腎「腫瘍」よりは好ましい。)
AAEのフェレットでの臨床的兆候には、皮膚、生殖系、行動症状が含まれ、全てエストロゲンとその前駆物の高血清値に関連しています。皮膚兆候は所有者によって最も頻繁に観察され、尾頭に渡って始まり、身体前方に進行し、一般的に頭部、頸部、遠位四肢に広がる両側対称脱毛症によって特徴付けられます(以下の写真参照)。生殖異常には陰門膣排出物、卵巣摘出雌でのスタンプ子宮膿腫、高エストロゲン症と腺上皮の扁平化生に対して二次的な嚢胞性前立腺疾患の結果としての、雄の排尿困難が含まれています。行動異常には、雄と雌の両方ののぼり行動や攻撃性の増強、雄のマーキング行動があります。長期症例は、骨髄、筋肉消耗、無気力と後部不全麻痺などの他の非特異的兆候に対するエストロゲンの抑制効果の結果として、軽度貧血と点状出血(少量出血)を示すかもしれません。
ほとんどの症例では、診断は臨床的兆候に基づいています。完全な血液細胞カウントと化学的パネルは、貧血や血小板数減少が見られる長期症例を除いて、大多数の動物で正常限界内でしょう。AAEでの上昇ホルモンが、コルチゾールではなくてエストロゲンであるので、開業獣医は血清コルチゾールが上昇したとしても希であり、クッシング病の診断検査がほとんどか又は全く診断的価値を持たないことを知っておくべきです。エストラジオールの血清値は検査施設で測定されますが、エストラジオール前駆物や中間物質の上昇は多数の症例で臨床的兆候に関与していて、エストラジオールの測定値は正常範囲内であるかもしれません。新血液パネルはテネシー大学獣医学部の内分泌部で入手でき、血清エストラジオールだけでなく6つの中間物質も測定しまう。その検査は非常に感受性が高いが(90%以上の症例で陽性診断となります)、費用が高く、終了するのに数週間かかり、従って、臨床的兆候がわずかである症例にされるべきです。
AAEの最も効果的な治療は罹患した副腎腺を手術で除去することです。探査開腹術でしばしば正常3−5mm以上の片側副腎腺か両腺の拡大が認められます。未知の理由で、80%以上の増殖性副腎病巣が左副腎腺にあります。約15%の症例で、病巣は両側にあります。片側副腎切除は、大多数の症例で臨床的兆候の消失と体毛の再発育させます。体毛の再発育は2−6週間以内に始めるか、次の脱毛サイクルまで遅らせてもよいでしょう。しかし、両側疾患を持つ動物では、体毛再発育は一時的であるか、全く見られないかもしれません。これらの症例では、残余副腎腺の片側切除を強く考慮すべきです。最近、ジョセフ・ボック博士による両側副腎切除を行った動物でのコルチコステロイド置換に関するプロトコールが“Modern
Ferret”に記載されていました。両側副腎切除は両側副腎皮質癌を発症する症例に必要かもしれません。この分野でもっと多くの研究が必要ですが、副腎摘出フェレットの外因性維持の可能性は、フェレットの副腎新形成の治療に希望を与えています。
病理学者の観点から、著者が数年前に行った104の副腎腺(AAEの臨床兆候を示すフェレットから除去された)のレビューは、いくつかの非常に興味ある所見を示しました。約45%の病巣は両性過形成であり、45%は癌、10%は腺腫でした。副腎悪性疾患症例の経過観察は、これらの新生物が疾病経過後期に転移することを示しました。事実、フェレットは、転移性疾患の結果と比べ、大きな副腎悪性疾患の腫瘍壊死の結果として血管出血で死ぬことが多いのです。臨床用語にすると、悪性副腎皮質新生物の予後は、疾病経過中早期に切除すれば、両性新生物の予後とほとんど変わりません。
手術の効果はフェレットでは予測できない為、副腎皮質機能高進の治療は手術の危険性の高い動物のみにされています。リソドレンは、イヌやネコでの使用と比べ、フェレットでは有意に多く用いられています。多数の症例では、リソドレン療法はフェレットのAAEでほとんどか又は全く効果がなく、希に副腎機能低下症を生じさせるかもしれません。
最近、何人かの開業獣医は、フェレットのAAEの治療に酢酸メゲストロールの使用を提唱し、脱毛の可逆化に成功したことを示しました。著者の意見では、本剤の使用は非常に疑問です。それはAAEのフェレットに、美容的改善を生じさせるが、悪性の可能性のある増殖副腎病巣に対して、何らかの効果を持つとは期待できないからです。
副腎関連内分泌障害はフェレットで非常に頻繁に生じ、治療し易い疾患です。この状態の診断と治療は、全てのフェレット開業獣医が熟知していなければならないことです。あなたは全ての脱毛フェレットを助けることができるのです。
副腎疾患についての補足
イタチ科の野生動物であったフェレットがペットとして人気になったのは、卵巣・精巣摘出手術や臭腺の摘出手術をおこなった結果です。この手術をしなければ、繁殖もでき、きつい体臭もあり、ある程度の凶暴性も出てくることでしょう。この問題点を解決するために手術をしているわけですが、この早期の手術が、副腎の病気と関係あるという説が当初、有力でした。早期に手術をしたために、副腎が性ホルモンを過剰に分泌するようになったと考えられました。このため発情に似た状態になります。もちろん実際に発情しているわけではありません。貧血、排尿障害、脱毛がよく見られる症状です。犬で似た症例があるためこの説が出てきましたが、不妊手術をしなかったフェレットで調査しても発癌性が低くなることはなく、逆に乳癌の発生が増えたほどなので、この説は最近ではあまり信頼性がなくなってきました。ただ現在でもこの説が正しいといわれる獣医さんが多いです。
フェレットにおいて、左の副腎は、腎臓と下大静脈の間にあります。右の副腎は、下大静脈に接して、肝臓の下に潜り込むようなところに位置しています。副腎からは4つのホルモンが出ています。性ホルモンは生殖機能、つまり発情をコントロールしています。そのため、副腎疾患によって性ホルモン過剰になると、不妊手術済みのメスの体や、去勢手術済みのオスの行動に発情同様の変化が生じます。もちろん、不妊去勢手術をしていますから、本当に発情しているわけではありません。
副腎疾患で最も問題なのは脱毛ではなく、メスの「貧血」とオスの「排尿障害」です。発情したメスをそのままにしておくと、命にかかわる貧血を起こします。不妊手術をしたメスであっても、エストロゲンが過剰になると同じような貧血を起こします。オスの生殖器官の「前立腺」の一部が膨張することがあります。前立腺は尿道のまわりに存在しているため、尿道が圧迫されて排尿障害がおきます。
治療に関しては、内科的治療と外科的治療がありますが、外科的治療が良いというのが一般的です。内科的治療はリュープロンという高額な薬を一生、注射しつづけなくてはならずに飼い主に大きな負担をかけることになります。この投薬は対処療法で、ホルモンの分泌を一時的にはおさえることができますが、根本的な解決にはなりません。ただし高齢で手術ができないフェレットには内科的治療も有効と思われます。
また、外科的治療(副腎摘出)をした場合、手術によって失われた副腎ステロイドホルモン(糖質コルチコイド)と電解質の調整をコントロールするホルモン(鉱質コルチコイド)を必要に応じて補充した方がよいといわれます。
最新医療情報 過去において、フェレットの副腎腫瘍の原因に、フードの発癌物質や早期不妊手術によるホルモン過剰が原因といわれた時期もありましたが、だんだん科学的な研究もすすんできました。(市販フード比較や鶏肉のみの給餌テスト、未手術フェレットの発癌調査しても確証がとれませんでした。逆に未手術フェレットには乳癌の発生も多くみられたという研究発表もありました。)数年前にフェレットの副腎腫瘍の原因に、夜間の照明が原因ではないかという説と夜は暗くしたほうが副腎腫瘍の予防になるという研究発表がされましたが、それが最近はかなりの現実性が出てきました。 というのは、人間の癌の研究でも、「睡眠」と「光刺激」が体内時計調整ホルモン「メラトニン」だけでなく、免疫ホルモンにも深くかかわり、発癌率に大きく影響を与えることが実証され、睡眠時間をしっかりとることと、真っ暗の環境で寝ることが、癌予防になるといわれるようになりました。 深夜に仕事をされる方は真っ暗な部屋で仮眠を1時間でもとることを推奨されています。それが無理なら遮光性の高いアイマスクをして仮眠をするように言われています。 人間の癌の発生が急激に増えたのは、夜間でも仕事をしたり、照明で明るくできるようになった時代からであり、国によってその環境で癌発生率が変化しています。 フェレットでもヨーロッパで屋外飼育されているフェレットに副腎腫瘍が少ないのは、夜間に真っ暗になるからという仮説が実証されました。 メラトニンは、朝日を浴びてから約14〜16時間後に分泌を開始するといわれています。朝8時に起きれば、だいたい夜の10時から12時ごろにメラトニンが分泌されます。朝の光を浴びなかったり、夜間でも明るいとこのメラトニン分泌が低下してしまいます。 メラトニンに類似するホルモンでコルチゾールがあります。脳下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が分泌され、副腎皮質に働きかけ、コルチゾールを分泌させます。コルチゾールは脂肪や、肝臓にたくわえられているグリコーゲンを分解して、ぶどう糖を血液中に補給します。これによって、睡眠中の血糖値を一定に保っています。 フェレットの副腎腫瘍の予防のために、夜間の「光刺激」を防止してください。室内の照明を消せないなら、遮光生地でケージカバーをしたり、厚手の寝袋に潜って寝させることをおすすめします。そして朝には太陽の光でお部屋を明るくしてあげてください。(まだ実証されていませんが、インスリノーマの予防や改善にも効果があるかもしれません。) |
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